世界マンガゼミナール

グラフィックノベル読解

グラフィックノベル?

 マンガを世界規模で捉えようという試みは、早くは1970年前後に始まっています。日本が誇る偉大なる世界マンガのアマチュア小野耕世さんも早くからそうした視野を持っていた1人でしょう。それらの先駆的な試みが、ここ数年、欧米を中心に、さまざまな形で実を結びつつあります。一例をあげれば、以下のようなものがあります。

 

・Paul Gravett, Graphic Novels, Everything You Need to Know, Collins Design, 2005

(ポール・グラヴェット『グラフィックノベル』)

・Joseph Ghosn, Romans graphiques : 101 propositions de lectures des années soixante à deux mille, 2009

(ジョゼフ・ゴーン『ロマン・グラフィック―60年代から2000年までの101のオススメ作品』)

・Paul Gravett, 1001 Comics You Must Read Before You Die, Universe, 2011

(ポール・グラヴェット『あなたが死ぬまでに読むべき1001のコミックス』)

・Dan Mazur & Alexander Danner, Comics, A Global History, 1968 to the Present, Thames & Hudson, 2014

(ダン・メイザー&アレクサンダー・ダナー『コミックスの歴史―1968年から現在まで』)

小野耕世『世界コミックスの想像力―グラフィック・ノヴェルの冒険』青土社、2011

・『ユリイカ』2013年3月臨時増刊号「世界マンガ大系―総特集:BD、グラフィックノベル、Manga…時空を結ぶ線の冒険」青土社

 

 この「世界マンガゼミナール」では、比較的最近出版された世界マンガの名作を取り上げていく予定ですが、ポール・グラヴェットや小野耕世さんに倣って、ひとまずそれらを“グラフィックノベル”と呼んでみてもいいかもしれません。誤解のないように先にはっきりと断っておかねばなりませんが、ここではこの“グラフィックノベル”という言葉を、学術的な定義の手続きを経ずに用いています。グラフィックノベルという言葉は、実は、さまざまな意味で用いられるややこしい言葉だったりします。例えば、アメリカでは時に、アメリカン・コミックスも日本のマンガも関係なく、単行本として出版された広義のマンガをグラフィックノベルと呼ぶこともあるそうです。ひょっとしたらグラフィックノベルなんて、要はただのマンガに過ぎないのかもしれません。ポール・グラヴェット『グラフィックノベル』の巻頭に掲載されたチェスター・ブラウンの2ページのマンガ(掲載できなくて残念…)が、皮肉な語り口で言おうとしているのはそういうことなのかもしれません。

 私たちの目的は世界マンガの研究を行うことではなく、世界マンガを読む輪を広げることです。“グラフィックノベル”という言葉からは、何かステキな物語と出会えそうな予感が感じられると思うのですが、いかがでしょう? その予感を信じて、敢えて曖昧なままこの言葉を使ってみようと思います。とりあえず、かっこよさげ、いい話っぽい、深みがありそう、そんななんとなくの関心から世界マンガにアプローチしてみましょう。

(原 正人)